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賃金の「デジタル払い」、うちも対応が必要? 導入に欠かせない手続きと注意点

結論

賃金のデジタル払いは、「本人の同意」だけでは導入できません
まず①指定業者かの確認、次に②労使協定の締結、そのうえで③労働者ごとの書面同意――この3ステップが必要です。

「最近、給料をスマホ決済アプリで受け取れるようにしたい、という声が若手から出た。うちも対応しないといけないのか? やるとしたら、何から手をつければいいのか?」
このようなご相談を受けることがあります。令和5年4月に解禁された「賃金のデジタル払い」は、指定業者が少しずつ増え、いよいよ実務で検討する会社が出てきました。導入は任意ですが、いざ入れるとなると決まった手続きがあります。順番に整理しましょう。

給与支給明細書のリングノート

そもそも「賃金のデジタル払い」とは

労働基準法24条は、賃金支払いの5原則(通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払い)を定めています。このうち「通貨払いの原則」の例外として、これまでも銀行振込などが認められてきました。ここに、令和4年11月の省令改正で新たに加わったのが、資金移動業者(○○Payなどのサービス)の口座へ賃金を支払う「デジタル払い」です。制度は令和5年4月1日から始まっています。

ポイントは、どの業者でもよいわけではないという点です。利用できるのは厚生労働大臣の「指定」を受けた資金移動業者に限られます。指定は、賃金が確実に支払われる仕組み(破綻時の保証や口座残高上限など)が整っているかを国が審査したうえで行われます。令和8年7月1日現在、指定を受けているのは次の4社です。

指定資金移動業者(4社)

・PayPay株式会社(令和6年8月指定)

・株式会社リクルートMUFGビジネス(令和6年12月指定)

・楽天Edy株式会社(令和7年3月指定)

・auフィナンシャルサービス株式会社(令和7年4月指定)

指定業者は今後も増える可能性があります。導入時は必ず厚生労働省サイトの最新の指定業者一覧をご確認ください。

導入に必要な手続き――3つのステップ

実際に導入する場合、会社に求められる手続きは大きく3つです。

① 指定業者かどうかの確認――従業員が希望する(あるいは会社が使いたい)サービスが、上記の指定業者かをまず確認します。指定を受けていない業者では、デジタル払いはできません。

② 労使協定の締結――過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労使協定を結びます(令和4年11月28日 基発1128第4号)。協定に定める事項は、㋐対象となる労働者の範囲 ㋑対象となる賃金の範囲とその金額 ㋒取扱指定資金移動業者の範囲 ㋓実施開始時期の4つです。

③ 労働者ごとの書面同意――そのうえで、労働者一人ひとりから書面等で個別の同意を取得します(労働基準則7条の2)。同意書には、本人が希望する賃金の範囲・金額、利用するサービス名と口座情報、支払い開始希望時期のほか、後述する「指定代替口座」の情報も記載してもらいます。

労使協定書や同意書のひな型は、厚生労働省のウェブサイトから無料でダウンロードできます。ゼロから作る必要はありません。

厚生労働省の庁舎看板
利用できる業者
指定の4社
令和8年7月1日現在
労使協定で定める
4つの事項
対象者・賃金・業者・開始時期
払出しの期限
支払日 午前10時
ごろまでに払戻し可能に

見落としやすい実務のポイント

手続き以外にも、運用面で押さえておきたい点があります。

・支払日の「午前10時ごろまで」に引き出せる状態に――デジタル払いでも、所定の賃金支払日の午前10時ごろまでには、労働者が払出し・払戻しできる状態にしておくことが求められます。給与計算・送金のスケジュールは従来より前倒しの意識が要ります。

・計算書(明細)の交付は引き続き必要――基本給・手当ごとの金額、源泉徴収税額、社会保険料などの控除額、実際に振り込んだ金額を記した計算書の交付は、デジタル払いでも変わりません。

・「指定代替口座」を必ず用意――資金移動業者の口座には受入残高の上限があり、これを超える分の送金先として、あらかじめ労働者に銀行口座などを指定してもらいます。上限超過で送金が生じた場合、その手数料が労働者の負担になる可能性がある点も、事前に説明しておくと親切です。

ここに注意

会社は導入を強制されませんし、労働者に強制することもできません。デジタル払いを希望しない従業員は、これまでどおり銀行口座などで受け取れます。また、賃金の一部だけをデジタル払いにし、残りは銀行振込にすることも可能です。「全員一律で切り替える」制度ではない――ここを取り違えると、同意のとり方でトラブルになりかねません。

導入前セルフチェック

デジタル払いを検討するなら、あてはまるものにチェックを入れてみてください。

チェック結果がここに表示されます。

経営者への示唆――「福利厚生」として設計する

賃金のデジタル払いは、法律上は「やってもやらなくてもよい」制度です。無理に急ぐ必要はありません。一方で、キャッシュレス世代の若手やパート・アルバイトにとっては、「給料の一部をすぐアプリで使える」ことが小さな魅力になり得ます。採用や定着の観点から、選択肢として用意しておく価値はあります。

導入するなら、大切なのは順番と書面の整備です。本人同意を先に集めてしまい、労使協定を忘れていた――といった手戻りは避けたいところ。労使協定と同意書は厚生労働省のひな型を土台に、自社の対象範囲や上限額に合わせて調整すれば、それほど手間はかかりません。給与計算ソフトや金融機関側の対応可否も含め、「入れる/入れない」の判断材料を一度そろえておくのがおすすめです。

顧問先の方は、上のセルフチェックの結果を、そのまま貼ってご相談いただけます。

主な根拠:労働基準法24条/労働基準法施行規則7条の2/「賃金のデジタル払い」に関する通達(令和4年11月28日 基発1128第4号)/厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」(指定資金移動業者一覧・令和8年7月1日現在)。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については最新の法令・通達をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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