結論
これまで努力義務だった50人未満の小さな会社も、ストレスチェックが義務になります。
施行は公布後3年以内(令和10年5月まで)。あわてず、今から「外部の力を借りる準備」を始めるのが正解です。
「うちは社員が50人もいないから、ストレスチェックは関係ない」——これまではそのとおりでした。しかし、メンタル不調による休職や離職は、人数の少ない会社ほど一人欠けたときの痛手が大きいものです。「具体的にいつから、何を、いくらくらいかけてやればいいのか」——このようなご相談を受けることがあります。法改正で何がどう変わり、小さな会社は何から手をつければよいのかを、順番に整理しましょう。
何が変わる?――「努力義務」から「義務」へ
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法66条の10にもとづく仕組みです。現行(令和8年5月時点)で実施が義務づけられているのは常時50人以上の事業場で、50人未満は努力義務にとどまっていました。
ところが、令和7年(2025年)5月に公布された改正労働安全衛生法により、この義務が50人未満の事業場にも拡大されます。施行は公布後3年以内に政令で定める日(=令和10年〈2028年〉5月まで)です。背景には、メンタルヘルス不調の未然防止、そして人材の確保・定着・離職防止という社会的な要請があります。
小さな会社の壁は「実施者の確保」――外部機関を使う
50人未満の事業場には、産業医を選任する義務(安衛法13条)がありません。そのため、ストレスチェックの中核を担う「実施者」(医師・保健師など)をどう確保するかが最初の課題になります。
この点について、厚生労働省は令和8年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表し、外部機関の活用を現実的な対応として示しています。民間のストレスチェックサービスや医療機関に委託すれば、質問票の配布・回収、結果の集計・分析、高ストレス者の判定、面接指導の調整といった専門的な部分を任せられます。会社側は「制度の周知」と「受検しやすい環境づくり」という基本的な役割に専念でき、過度な負担を避けられます。
さらに、全国に約350か所ある地域産業保健センター(地産保)では、50人未満の事業場を対象に、高ストレス者への医師の面接指導などを無料で受けられます。「お金がかかるから」と最初の一歩をためらうみ必要はありません。
ここに注意
費用負担について法律に明確な定めはありませんが、安全配慮義務(労働契約法5条)などから、実施費用・集計分析費用・面接指導費用は原則として会社(事業者)が負担すべきものと解されています。民間サービスの相場は一般に1人あたり数百円〜2000円程度といわれます。また、高ストレス者本人から面接指導の申出があった場合、事業者はこれを実施しなければなりません(安衛法66条の10第3項)。受検結果は本人の同意なく会社が見られない情報です。プライバシー保護の仕組みづくりもあわせて必要です。
「ただ受けるだけ」で終わらせない――職場改善まで
ストレスチェックの本当の価値は、個人の状態を知ることよりも、その結果を職場環境の改善につなげる点にあります。安衛法66条の10第5項も、検査結果を踏まえて必要な就業上の措置などを講ずるよう求めています。
個人が特定されない形で部署ごとに結果を分析(集団分析)すると、「業務量がこの部署に偏っていないか」「上司と部下のコミュニケーションは取れているか」「休暇を取りやすい雰囲気か」といった組織の課題が見えてきます。いわば職場の"健康診断"です。義務化を「やらされ仕事」ではなく、自社の働きやさを点検する機会と捉えると、得られるものは大きく変わります。
自社の「ストレスチェック準備度」セルフチェック
あてはまるものにチェックを入れてみてください。
チェック結果がここに表示されます。
経営者への示唆――"3年後"ではなく"今"動く理由
施行は公布後3年以内ですから、「まだ先の話」と感じるかもしれません。しかし、実施者となる外部機関は、義務化が近づくほど予約が取りにくくなることが予想されます。努力義務の今のうちに、委託先の候補をリストアップして一度"試しに"実施してみる——これだけで、義務化のときに慌てずに済みます。
そして何より、メンタル不調による休職や離職は、人数の少ない会社ほど業務への影響が大きくなります。ストレスチェックは「コスト」ではなく、大切な人材を守り、定着させるための投資と捉えたいところです。
顧問先の方は、上のセルフチェックの結果を、そのまま貼ってご相談いただけます。
主な根拠:労働安全衛生法66条の10/令和7年5月公布の改正労働安全衛生法(ストレスチェックの50人未満事業場への拡大。施行は公布後3年以内に政令で定める日)/厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」/厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)。施行日や運用の細目は今後の政令・通達等で確定するため、最新の情報をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については最新の法令・通達をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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