結論
就業規則と36協定は、店舗(事業場)ごとに作って届け出るのが原則です。
ただし一定の条件を満たせば「本社でまとめて届出」ができ、令和7年(2025年)3月末からは、店舗ごとに内容が違っても電子申請で一括届出できるようになりました。
「1号店が軌道に乗ったので、2号店・3号店と増やしていきたい。ただ、店舗が増えるたびに就業規則や36協定を1店ずつ労基署へ届け出るのは正直手間だ。まとめて出せないのか?」
多店舗展開をめざす経営者から、このようなご相談を受けることがあります。飲食・小売・サービス業など、同じ業態の店舗を各地に広げていく事業では、避けて通れないテーマです。結論からいえば「まとめて出せる」——ただし条件があり、そのルールが令和7年に大きく変わりました。整理していきましょう。
そもそも「本社一括届出」とは——原則は店舗(事業場)ごと
就業規則も36協定(時間外・休日労働に関する協定)も、法律上は事業場ごとに作成・締結し、その所在地を管轄する労働基準監督署に届け出るのが原則です。支店や各店舗が独立した事業場と認められる限り、本来は1店ずつ別々に手続きが必要になります。
この手間を軽くするのが「本社一括届出」です。ただしここで注意したいのは、一括届出は「本社で作った1つの規則・協定を、そのまま全店に適用する」という意味ではないということです。あくまで各店舗ごとに(作成・締結したとみなされる)規則・協定について、所定の項目が同じであることを条件に、本社でまとめて手続きすることを認めた制度です。中身は店舗ごとに存在している、という建付けは変わりません。
令和7年3月末、ここが変わった——「内容が違う店舗」も一括OKに
従来、書面やこれまでの電子申請(e-Gov)で本社一括届出をするには、本社と各店舗の就業規則・36協定の内容が「同一」であることが前提でした。店舗ごとに労働時間や休日の設定が違えば、一括にはできなかったわけです。
これが令和7年(2025年)3月末から変わりました。厚生労働省の労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」を使って電子申請する方法が新たに加わり、本社とは内容が異なる複数の店舗についても、一括で届出できるようになったのです(令7・3・28 基発0328第8号・第9号)。
たとえば「本社と直営A店は同じ内容、フランチャイズ寄りのB店・C店は別の内容」という場合でも、内容が同じグループごとにまとめて、本社の管轄労基署へ一括で届け出られます。店舗ごとに就業時間や休憩・シフトの組み方が違ってきがちな多店舗展開にとって、実務負担を大きく減らす改正といえます。
ここに注意
「内容が違っても一括」が使えるのは電子申請(労働条件ポータルサイト経由)に限られ、対象手続も限定的です。新方式で一括できるのは就業規則・36協定(一般条項/特別条項など)・1年単位の変形労働時間制に関する協定の3種類で、1か月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制の協定は対象外です(令和7年時点)。「全部まとめて出せる」と思い込まず、手続の種類ごとに可否を確認しましょう。
就業規則の一括届出——意見書は「各店舗分」が必要
就業規則を一括届出する場合でも、各店舗の従業員代表から聴いた意見書は、店舗ごとに用意して添付する必要があります。店舗が違えば従業員代表も違うのが通常ですが、各事業場分の意見書を添付すれば足りるとされています(令7・3・28 基発0328第9号)。「本社の意見書1枚で全店ぶんまかなえる」わけではない点に注意してください。
36協定については、従来から「労働保険番号」「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地」「労働者数」「協定の成立年月日」以外の事項が同一であることが一括の要件とされてきました。かつては協定を結ぶ当事者(過半数労組・過半数代表者)も全店で同一であることが求められましたが、令和3年3月末以降の電子申請では、各店舗の代表者の氏名・職名や選出方法が店舗ごとに異なっていても差し支えない取扱いに緩和され、今回さらに「内容そのものが違う店舗」まで一括の対象が広がった、という流れです。
多店舗展開の「届出まわり」セルフチェック
あてはまるものにチェックを入れてみてください。
チェック結果がここに表示されます。
経営者への示唆——「増やす前」に届出の型を決めておく
多店舗展開でつまずきやすいのは、店舗を増やしてから「そういえば36協定は?就業規則は?」と後追いになるパターンです。特に36協定は提出していない状態で残業をさせると、それ自体が労働基準法違反になり得ます。店舗を出すたびに個別対応していると、更新漏れ・提出漏れのリスクも積み上がります。
今回の一括届出の拡充は、「本社で届出まわりを一元管理する」体制と相性が良い改正です。1号店の段階から、就業規則・36協定のひな型と、本社でまとめて電子申請する運用を整えておけば、2号店・3号店の出店スピードに手続がついていけます。逆にいえば、どの店舗をどのグループにまとめるか(内容をどこまで揃えるか)は設計次第。ここは自社の実態と、使える一括届出の枠組みを踏まえて決めるのが得策です。
顧問先の方は、上のセルフチェックの結果を、そのまま貼ってご相談いただけます。「うちの出店計画だと、どうまとめるのが良いか」も含めてお気軽にどうぞ。
主な根拠:厚生労働省「労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について」/就業規則・36協定等の本社一括届出に関する取扱い(令和7年3月28日 基発0328第8号・第9号、労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」経由の電子申請は令和7年3月末から)。対象手続や要件は今後変わる可能性があるため、実際の届出前に最新の取扱いをご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については最新の法令・通達をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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