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1年変形制の残業代、いつ払う? 原則は期間終了後――でも"先払い"が要ることも

結論

対象期間全体の「総枠超え」で生じる割増賃金は、対象期間終了直後の賃金支払日に支払えば足ります。
ただし、期間の途中で総枠を超えることが明らかになったら、その直後の賃金支払日に"先に"清算が必要です。

「1年単位の変形労働時間制を入れている。繁忙期にたくさん働いてもらったが、年間の総枠を超えたかどうかは対象期間が終わらないと分からない。この分の残業代は、期間が終わってから払えばいいのか?」
このようなご相談を受けることがあります。1年変形制は残業代の"数え方"と"払うタイミング"が通常と違い、ここを取り違えると未払い残業のリスクに直結します。順を追って整理しましょう。

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まず前提——1年変形制の「総枠」とは

1年単位の変形労働時間制(労働基準法33条の4)は、1か月を超え1年以内の対象期間を平均して、週40時間の範囲内で各日・各週の所定労働時間を先に決めておく制度です。この「範囲」の上限が法定労働時間の総枠で、計算式は 40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7。対象期間を1年(365日)とすると、総枠は約2,085時間になります。

各日・各週の所定労働時間の決め方にも上限があり、1日10時間・1週52時間まで。対象期間が3か月を超える場合は、労働日数は年間280日まで、連続労働日数は6日まで、さらに週48時間を超える週の設定に制約が加わります。1か月変形制のように「1日16時間」といった極端な設定はできません。

1年(365日)の総枠
約2,085時間
40時間×暦日数÷7
各日・各週の上限
1日10h/週52h
3か月超は年280日まで
月60時間超の割増率
5割増
中小も2023年4月から

残業代は「3つの入口」から生まれる

1年変形制で時間外労働(残業代の対象)になる部分は、①1日 ②1週 ③対象期間全体の3つの観点から拾い上げます(平成6年1月1日 基発1号)。この順で、上位で数えた分を除きながら重ねて把握するのがポイントです。

① 1日ごと——8時間を超える所定を定めた日はその定めた時間を超えた分、それ以外の日は8時間を超えた分。

② 1週ごと——40時間を超える所定を定めた週はその定めた時間を超えた分、それ以外の週は40時間を超えた分(①で数えた時間は除く)。

③ 対象期間全体——上記①②に当たらないもので、総枠(約2,085時間)を超えて労働させた時間。この③が、期間が終わるまで金額の確定しない部分です。

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③はいつ払う?——原則「期間終了後」でよい

①②の残業代は、その労働があった月の賃金でその都度支払います。問題は③です。総枠を超えたかどうかは、ふつう対象期間が終わってみて初めて確定するものです。そのため③に対する割増賃金は、対象期間終了直後の賃金支払日に支払えば足りるとされています(平成6年5月31日 基発330号)。毎月の締めで先取りして計算する必要はありません。

なお、この期間終了時に確定する割増賃金については、その支払期日(=期間終了直後の賃金支払日)が消滅時効の起算日となります。

ここに注意

「期間終了後でよい」は絶対ではありません。たとえば対象期間の終了1か月前の時点で、実労働時間がすでに総枠を超えてしまった——というように、期間の終了を待たずに③の時間が発生することが明らかになった場合は、原則の例外です。その場合は、超えることが明らかになった直後の賃金支払日に支払わなければなりません。「まだ期間の途中だから」と年度末まで持ち越すと、未払いになってしまいます。

さらに、1か月に60時間を超える時間外労働は割増率が5割(労基法37条1項ただし書。中小企業も2023年4月1日から適用)です。この60時間の判定は各月の起算日から累積して行うため、とくに繁忙が重なった月や対象期間の最終月では、過去の時間外労働も合わせて確認する必要があります。

自社の「1年変形制」セルフチェック

あてはまるものにチェックを入れてみてください。

チェック結果がここに表示されます。

経営者への示唆——「払い忘れ」より怖い「数え漏れ」

1年変形制は、繁忙・閑散の波に合わせて所定を組めるため、うまく使えば残業代を抑えつつ働き方を平準化できる有力な制度です。一方で、残業代の数え方が3層構造になっているぶん、「③の総枠超えだけを見て①②を取りこぼす」「最終月にまとめて計算しようとして60時間超の累積を見落とす」といったミスが起きやすいのも事実です。

実務でまず整えたいのは、対象期間の総枠を最初に計算して手元に置いておくこと、そして毎月の実労働時間を積み上げ、総枠に近づいたら早めにアラートを出す仕組みです。これがあれば、「期間終了を待たず清算すべきケース」を取り逃しません。制度を導入したものの労使協定や賃金計算が制度の要件どおりになっているか不安、という場合は、一度点検しておくと安心です。

顧問先の方は、上のセルフチェックの結果を、そのまま貼ってご相談いただけます。

主な根拠:労働基準法32条の4(1年単位の変形労働時間制)/同法37条1項ただし書(月60時間超の割増賃金・中小企業は2023年4月1日から適用)/時間外労働の把握=平成6年1月1日 基発1号/③の割増賃金の支払時期・時効=平成6年5月31日 基発330号/厚生労働省・都道府県労働局「1年単位の変形労働時間制」。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については最新の法令・通達をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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